こんにちは。
ENJOYWORKS OSAKAの落海(京都在住)です

今回、217日(土)に開催された京都の老舗不動産会社「八清」のオープンハウスに足を運んできました。現地を訪れると路地の入口でこのプロジェクトの発起人である八清の西村会長に遭遇!会長によると、スタートからオープンハウスに至るまで実に9年もかかったという執念のプロジェクトとのこと。さて一体どんなプロジェクトなのでしょうか。

なんとか路地文化を守りたい、という執念

この写真だけ見るとよく見かけるような光景

場所は京都市下京区中堂寺前田町。JR丹波口から徒歩7分、五条通から少し下がった住宅街の路地奥に今回の建物が建っています。細い路地を入っていくと途中からパッと広場のように通路が広がり、既存の住宅の並ぶ向かいには、黒と格子でデザインが統一された4連棟の新築長屋が。何も知らずにこの路地に迷い込んだら、いつの間にかこんなところに素敵な新築が建っている!と思うかもしれません。

指定道路図でも北側と東側の路地がつながっていないのが分かる。

“再建築不可“という建築基準法上の壁

しかし、この立地は、設計事務所や不動産会社のように建築基準法に馴染みのある者からすると、「???」となります。というのも、建築基準法では、建築物の敷地は原則として建築基準法上の道路に2m以上接しなければならないからです。京都市の指定道路図を確認してみると、今回の敷地は赤い線にのみ面してします。赤い線はいわゆる非道路のため、この敷地は接道条件を満たしていません。即ち本来ここは新築を建てられない敷地なのです。では、なぜここに新築が建っているのか。

まずこの敷地の歴史を見てみます。①~⑥は元々建物が6棟建っていて①~④は北側路地から、⑤⑥は東側路地からのアプローチでした。しかし20数年前に起こった火事で③~⑥が消失・除却してしまいます。ここは再建築不可の敷地で建て替えもできないため、長いこと空き地として放置されていました。先ほどの航空写真でもその様子が分かります。また①②の建物は空き家となっていました。そこで八清の西村会長は、京都の路地の活用に特に力を入れている都市居住推進研究会(通称「都住研」)とコラボして、何とか路地を復活させられないか検討を始めます。というのも路地は車が来ないので子供が安心して遊べ、子育てに向いていると考えたからです。

建築基準法上の壁は、建築基準法で乗り越える!

そこで目を付けたのが、「建築基準法第43条第2項第2号の許可」です。建築物の敷地は建築基準法上の道路に2m以上接しなければなりませんが、特定行政庁が交通上、安全上、防災上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したものについては、再建築が可能となります。

安全性を高めるため、向いの家から3mセットバックしてその部分を“新たな通路”とすることで北側の非道路と東側の非道路がつながり、また東側を避難経路とすることで見事に建築審査会の同意が得られ、再建築が可能になったとのことです。

植栽もあり、路地奥とは思えない開放感。家ともそのままつながっている。

“新たな通路”は安全性だけでなく、子供の遊び場としても非常に有効なスペースとなります。子供たちがここで遊ぶことをイメージし、格子を全開することで建物が路地に開けるように工夫が施されています。さらに本物件は、子育て世代に向けた賃貸収益物件を想定しており、具体的にはお子様一人につき5,000円賃料が安くなるという、収益性の逆を行く面白い仕組みが導入されています。全国にもあまり例がないのではないでしょうか?

言われなければここが避難経路だとは気付かない。

こちらは、東側の避難経路に抜けられるところ。東側路地にお住いの方たちのプライバシーを保つために、マンションのバルコニーで見かけるような「隔て板が」設置されているが、非常時には蹴破ることで避難ができるようになっている。

路地の多さは、京都の抱える都市課題

京都市内には平安京からの都市の成り立ちにより、現在約4,330本もの袋路があると言われており、近年防災上の観点から大きな都市課題とされています。袋地の再建築不可の物件は不動産評価も低く融資も下りづらいことから、不動産としての売買がしづらく使われないまま建物の老朽化がますます進んでいます。また高齢化も進み、路地の空き家も増え続けているのが現状です。そんな状況をなんとか打破しようとチャレンジしたのが今回の路地再生プロジェクトです。元々この地域が「旭地区」と呼ばれていたことから、今回新たに生まれ変わった路地を、親しみを込めて「旭小路」と名付けたそうです。またその路地に建っている長屋なので、必然的に建物は「あさひ長屋」という名称が。路地と建物に名前がついていて、とても愛着が湧いてきますよね。

社会的意義のある路地再生モデルプロジェクトを見学させていただき、とても勉強になりました。不動産と建築ってホントに奥が深いですね。路地再生の案件にもぜひ取り組んでみたいです!